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2008年9月 4日 (木)

『いのちの初夜』(下)

北条民雄『いのちの初夜』に心を揺さぶられた
藤野高明さん。

その藤野さんと『いのちの初夜』の出会いと
結びつきに感動を受けた作家がいます。
ノンフィクション作家の柳田邦男さんです。
(民俗学者の柳田国男さんではありません)

柳田さんは、北条民雄の壮絶な一生を
えがいた『火花』(高山文彦、角川文庫)の「解説」で
藤野さんのことを紹介しています。
柳田邦男、『「人生の答」の出し方』所収、新潮文庫

文庫本にして約6ページをさいて、藤野さんのことを
紹介しているのですが、ここでは全部載せられ
ないので、はしおって紹介します。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 そのエピソードは、最近、戦前生まれの私と
同じ世代で唯々(ただただ)驚愕するばかりの
人生を歩んだ一人の重度障害者の手記を読ん
で知ったものだ。死に向き合って書かれた一
遍の文学作品がこれほどまでに人の人生に
決定的な影響を与えるのかと、「書くこと」と「読
むこと」の繋がりの重みを、その手記からいま
さらながら感じたのだ。
 一遍の文学作品とは、北条民雄の「いのちの
初夜」だった。
 そして、一人の障害者とは、大阪市に住む六
十代半ばの藤野高明氏だ。
 (中略)
 決定的な転機をもたらしたのは、開眼手術を
試みるために入院していた大阪の病院での一
人の看護師Kさんとの出会いだった。Kさんは
街や野山の風景を見ることも本を読むこともで
きない藤野青年を可哀そうに思い、勤務時間
外に病室でいろいろな本を読んでくれた。その
一冊が北条民雄の「いのちの初夜」だった。
 (中略)
 藤野青年は病院で友達になった盲学校の先
生から点字を習った。はじめは点字の書かれた
紙に唇をあてても、ただザラザラと感じるだけで、
点字を解読することは全くできなかった。それで
も倦(う)むことなく練習を続けると、断片的なが
ら文字を拾うことができるようになり、さらに訓練
を続けると、文字が連なって言葉になり、文章と
なって理解できるようになった。
その時のことを、
最近の藤野氏は手記のなかで、「継続は力でし
た」「文字の獲得は光の獲得でした」と書いてい
る。何と力強くすばらしい言葉だろうと、私は打
ち震えるほど感動して読んだ

 (中略)
 一冊の本が一人の人生の決定的影響を与え
たというエピソードは多い。だが、「いのちの初
夜」が重度障害者ゆえに感覚的にも精神的にも
十三年間も深い闇の底で逼塞(ひっそく)を強い
られていた一人の若者を、突然「光の獲得」と
自ら言い切るほどの方向へ再生させる力を発
したこのエピソードほど、言葉の力の凄さを
感じた例を、私は他には知らない


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ところで、藤野さんは、
2年前、71期岡山労働学校の記念講演で、
岡山にお呼びした経験があります。

約80名の参加でしたが、、参加者一同、
感動をもって藤野さんのお話を聞きました。

参加者の感想を、2人だけ、ここで紹介します。

「高等学校で講師をしております。大先輩の
お話、心にひびくところがたくさんありました。
勉強できることの喜びを感じました。日々勉強
ですし、学びたいと思えば、簡単なことですよ
ね。本当にためになるお話でした。今日の出
会いを感謝します。ありがとうございました」
                   (24歳、女性)

「だんだん声が大きくなるとおっしゃっている
のを聞いて、すごい熱い方なんだろうなと最初
に感じました。感性にひびく言葉がすごいと
思いました。出会えたことに感動してしまい…
あまり書けません。たくさんの気持ち、言葉を
学べたことがうれしかったです」
                   (21歳、女性)

話の内容とともに、「こんなすごい人に出会えた
喜び」を、私をふくめ、参加者はみな、感じた
講演会になりました。



また、藤野さんは、目が見えないので、
自分の記憶だけをたよりに言葉を発します。
『未来につなぐいのち』(クリエイツかもがわ)の
なかでも、講演にのぞむ気持ちを書いておられ
るのですが、

「一時間ないしそれを超える講演は、たやすい
ことではありません。…予(あらかじ)め用意し
た原稿を時どき唇で確かめながらという訳に
は行かないのですから、
前もってよほど準備を
しなければ、安心してマイクの前に立てないの
です。
話し始める前にはいつも胸がドキドキす
るのです
」(37~38P)

これはずいぶん昔の藤野さんの文章ですが、
「原稿を確認できない」という点では、いまも
変わりありません。自分の記憶だけを頼りに、
講演をされるのです。

でも、一度藤野さんの講演を聞いたことがある
人は驚いたと思いますが、次々と出てくる言葉
の密度と正確さは、ほんとうにすごいのです。

全国集会の講演では、約1時間半の時間なの
で、ご自身の血のにじむような努力の話などは、
たぶん、あまりおしゃべりにならないと思います。
でも、なにより、藤野さんの歩んできた人生その
ものの熱が、言葉にのって、私たちにビンビン
届く、と思います。

前にすすもうとすると、“とうせんぼ”のように
壁があらわれた。それを乗り越えることができ
たのは、人と時代にめぐまれたからです


という藤野さん。


11月24日、倉敷芸文館で、
ご一緒に藤野さんと学びあいましょう。





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