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2007年3月16日 (金)

おもしろ憲法講座(4)

今回の話は、「おもしろ」くはありませんが、私の考えていることを
率直にご紹介します。

『あたらしい憲法のはなし』という小さいパンフレットがあります。

Dscn1662_1 
 戦後、文部省が作成し、
 
全国の中学生が学んだ教材です。
 (すぐなくなりましたが)

 現在、日本平和委員会などが
 
復刻版を出版しています。


これが、長らく民主勢力のなかで、学習教材として、
また憲法を考えるうえで、「なかなか良い内容」として、
活用されてきました。

私も4年ほど前までは、学習会などで紹介していました。
わかりやすく憲法を学ぶ点では、使える部分がたくさんあるし、
たしかにこれをつくった人の思いが伝わってくる内容ですので。

しかし、いつ頃からか、この『あたらしい憲法のはなし』の中身に
重大かつ決定的な弱点があることを、認識するようになりました。

それは大きく3点あります。

 ①天皇の戦争責任をまったく問題にしていないこと
 ②日本の侵略戦争についての叙述がまったくと言っていいほどないこと
 ③当時、日本から切り離された沖縄などへの言及がまったくないこと

じつは、これは戦後日本の弱点を集中的にあらわしている問題として、
解決していない問題である、と思うのです。


では、具体的に見ていきたいと思います。

まず、
天皇の戦争責任について、です。

『あたらしい憲法のはなし』の5章が「天皇陛下」となっていて、
冒頭、こう書かれています。

こんどの戦争で、天皇陛下は、たいへんごくろうをなさいました
なぜならば、古い憲法では、天皇をお助けして国の仕事をした
人々は、国民ぜんたいがえらんだものでなかったので、国民の
考えとはなれて、とうとう戦争になったからです」

これでは、あの戦争で、昭和天皇にはまったく責任がなく、
「まわりの人間が暴走して戦争したので、昭和天皇は苦労が
多かった」という理解を与えてしまいます。

歴史的事実は、これとは違います(説明ははぶきますが)。

天皇の戦争責任を不問にした(これはGHQの政治的力が働いたのですが)
ことが、日本の侵略戦争全体の責任の所在をあいまいにした
大きな原因の一つであることは間違いありません。

そして、これは、現在でも引き継がれている問題です。
「昭和天皇は平和主義者だった」と言う人が、まだまだ多いわけです。

昭和天皇の「聖断」のおかげで、どれだけ多くの人の命が
犠牲になったことか。

映画『硫黄島の手紙』が話題になっていますが、
1945年早々の御前会議で、「降伏」という決断を昭和天皇が
していれば、あのような「玉砕」の悲劇もおきなかったし、
本土空襲、沖縄戦、原爆投下もなかったわけです。

その侵略戦争全体の最高責任者である昭和天皇にたして、
「ごくろうをなさいました」はないだろう、と思います。


続いて、
日本の侵略戦争の叙述についてです。

パンフでは、6章「戦争の放棄」の部分です。
ここは、よく朗読などもされ、有名なところですが、
ここにも重大な欠落があります。

その最初の部分を書き出しておきます。

「みなさんの中には、こんどの戦争に、おとうさんやにいさんを
送りだされた人も多いでしょう。ごぶじにおかえりになったでしょ
うか。それともとうとうおかえりにならなかったでしょうか。また、
くうしゅうで、家やうちの人を、なくされた人も多いでしょう。いま
やっと戦争はおわりました。二度とこんなおそろしい、かなしい
思いをしたくないと思いませんか。こんな戦争をして、日本の国
はどんな利益があったでしょうか。何もありません。ただ、おそ
ろしい、かなしいことが、たくさんおこっただけではありませんか。
戦争は人間をほろぼすことです。世の中のよいものをこわすこ
とです。だから、
こんどの戦争をしかけた国には、大きな責任が
あるといわなければなりません
。このまえの世界戦争のあとでも、
もう戦争は二度とやるまいと、多くの国々ではいろいろ考えまし
たが、またこんな大戦争をおこしてしまったのは、まことに残念
なことではありませんか」


たしかに、言っていることに、間違いはありません。
しかし、ここには、明確に侵略戦争への謝罪の気持ちがなく、
「戦争一般の否定」というところにとどまっています。
日本の数倍、数十倍の被害にあったアジアの人々への
言及もありません。

「こんどの戦争をしかけた国には、大きな責任があると…」
と言っていますが、なぜはっきりと、「日本に」と書いていないのか。
このあたりに、非常に疑問を感じます。

本文では、そのあとに、戦力放棄の説明があり、
「みなさんは、けっして心ぼそく思うことはありません。日本は正しい
ことを、ほかの国よりさきに行ったのです。世の中に、正しいことぐら
い強いものはありません」 とあります。

この説明も、不十分だと思うのです。
「正しいことを、ほかの国よりさきに行った」のはそうかもしれませんが、
その前に、侵略戦争という重大な誤りを犯しているのです。

この叙述だけ読むなら、日本は正義の味方、英雄ですが、
事実はまったく逆で、「戦争放棄の憲法をつくる」という選択を
しないと、まわりの国が許さないし、国際復帰もできなかった、
それだけの誤りをおかした、その結果としての「戦争放棄」なのです。

現在、日本軍「慰安婦」問題をはじめ、歴史認識の問題で、
いまだに政治家たちが妄言をはいているわけです。
そして、それを許しているのが、日本国民なのです。
日本の戦争についての教育が決定的に不足しています。

このパンフをいくら学んでも、解決への力は育たないのではないでしょうか。


最後に、
沖縄などの問題です。

戦後すぐ、北緯30度線から南の奄美諸島、沖縄諸島は、
日本から切り離され、日本国憲法の適用除外とされました。

このパンフでは、その問題についての叙述はありません。

憲法制定と沖縄の犠牲の問題については、
次回のこの「講座」で書こうと思うのですが、
結論だけ言えば、この平和憲法は、沖縄の犠牲があったからこそ、
その有効性を発揮しえたのだ、ということです。

このパンフを読んでの「感動」がよく語られるわけですが、
当時も今も、
この憲法から除外された「沖縄の犠牲」を
想像できない日本人の弱さ
が、ここにもあらわれています。



以上、3点にわたって、『あたらしい憲法のはなし』の問題点について、
私なりに考えていることをご紹介しました。


べつに私は、このパンフの普及を妨害するためにこれを
書いたのではありません(笑)。
ただ、そこに「語られていない問題」があることを
しっかり示したうえで、活用することが必要ではないか、と思うのです。

なぜなら、この3点は、「いまだに解決していない問題」だからです。
解決しているならば、なにもこんなモンクは書きません。

 *戦争責任の問題
 *侵略戦争の教育の問題
 *憲法より安保が優先される沖縄の問題

見事に引き継がれているのです。

そのことを強調して、長くなりましたが、このへんで終わりにします。

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